ひ・と・で・な・し

妹から、メールが入った。

 

「お姉ちゃん、旦那さんにこんなこと、されたことある?」と、自身の赤くなった腕の写真付き。

 

どうやら、夫婦喧嘩の末、ご主人のマサオさんにつねられたらしい。さらに、首も絞められたとか。

痛々しい跡を見て、思わず彼に対して怒りを覚えたが、妹の話だけを一方的に信じることの危うさを思い出し、まずは労わり、経緯を訊くことに。

 

聞くところによると、発端は、自家用車の点検で、ディーラーに行ったとき、係員にドリンクを尋ねられたにも関わらず、結局帰るときまで注文したドリンクが出てこなかったこと。妹夫婦は、周りの客に出されたパンとドリンクを横目に、帰路に着いたらしい。

道中、車内で、マサオさんに、「どうしてわたしたちだけパンもドリンクも無かったんだろうね?」と口にしたところ、「そんなに食べたかったのか、卑しい」と言われた妹は、「あんたも結婚してから卑しくなった」と方向違いの口答えをし、最終的に、暴行されるに至ったとか。

 

絶対何か隠している。

妹は、一見大人しいのだが、些細なことをオーバーに受け取る性格のせいで、以前からマサオさんと激しい夫婦喧嘩を繰り返していた。駅のホームで、大泣きする1歳の息子をよそに、大声でお互いを罵倒し合い、最終的に周りの客に駅員を呼ばれたこともあるほど。そんなことがほぼ毎日繰り返され、一度はマサオさんと離婚したものの、またマサオさんと再婚するという、のんびりした我が家には異質の、激情型の女だ。

また、伊藤博文も知らないのに、自民党を盲信する、重度のネット右翼でもある。安倍政権が野党やマスコミから叩かれる案件が発生すると、自分で考えることはせず、同じネット右翼の、主観まみれの反論・擁護ブログやSNSを探し出し、「これがマスコミ、やり方が汚い。中韓に汚染されている。」のコメントとともに、その記事のURLを、得意げに家族全員に送りつけ、穏やかな父母を困惑させている。

 

対してマサオさんは、妹とはできちゃった結婚であったため、当初は我が家から歓迎されていなかったのだが、よくよく考えれば、あんな妹と結婚してくれるのは彼しかいない、本当に出来た人だ、と言わしめるほどの、落ち着いた男性。

妹とお腹の子どものため、好きだった仕事を辞め、将来的に安定した職に転職し、人生を妹に捧げてくれた、奇特な人だ。

 

だからいきなり「卑しい」だなんて放言する訳がないし、仮にそうだとしても、きっとそうさせる何かがあったのだろうと、わたしは思った。

 

しかし直接問いただしても、「お姉ちゃん、アンタもマサオの味方なんだね!」と逆ギレされることは目に見えていたので、落ち着いて諭しながら、何とかマサオさんがキレた決定的な理由を聞き出すことに成功した。

なんと妹は、自身のために仕事を変えてくれたマサオさんに対し、「この安月給が!」と、三文芝居のような暴言を吐き捨てていた。

わたしなら、我を失って、車で助手席側を狙って電柱にぶつけにかかるのではないかと思えるほど、人でなしの言葉。

よく聞くと、首も絞められたのではなく、首根っこを軽くつままれただけらしい。

 

にも関わらず、マサオさんは翌日、やり過ぎたと妹に謝った。聖人のようなマサオさん。

でも、思い出した。「犬が好き」と言った就活中の妹に、安易にドギーマンへの就職を勧めたマサオさんは、きっと妹とお似合いだし、結局2人目の子どもが出来ているのだから、喧嘩は彼女たちの日常で、他人が口出しすることではないのだ。

 

 

 

かばこ